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たのしみは 艸(くさ)のいほりの 莚(むしろ)敷(し)き ひとりこころを
静めをるとき |
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たのしみは すびつのもとに うち倒(たふ)れ ゆすり起(お)こすも 知らで寝し時 |
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たのしみは 珍(めづら)しき書(ふみ) 人にかり 始め一(ひと)ひら ひろげたる時 |
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たのしみは 紙(かみ)をひろげて とる筆の 思ひの外(ほか)に 能(よ)くかけし時 |
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たのしみは 百日(ももか)ひねれど 成(な)らぬ歌の ふとおもしろく 出(い)できぬる時 |
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たのしみは 妻子(めこ)むつまじく うちつどひ 頭(かしら)ならべて 物(もの)をくふ時 |
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たのしみは 物をかかせて 善(よ)き価(あたひ) 惜(を)しみげもなく 人のくれし時 |
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たのしみは 空暖(あたた)かに うち晴(は)れし 春秋(はるあき)の日に 出(い)でありく時 |
| 9 |
たのしみは 朝おきいでて 昨日(きのふ)まで 無(な)かりし花の 咲ける見る時 |
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たのしみは 心にうかぶ はかなごと 思ひつづけて 煙艸(たばこ)すふとき |
| 11 |
たのしみは 意(こころ)にかなふ 山水(やまみづ(さんすい))の あたりしづかに 見てありくとき |
| 12 |
たのしみは 尋常(よのつね)ならぬ 書(ふみ)に画(ゑ)に うちひろげつつ 見もてゆく時 |
| 13 |
たのしみは 常(つね)に見なれぬ 鳥の来て 軒(のき)遠からぬ 樹(き)に鳴きしとき |
| 14 |
たのしみは あき米(こめ)櫃(びつ)に 米いでき 今一月(ひとつき)は よしといふとき |
| 15 |
たのしみは 物(もの)識人(しりびと)に 稀(まれ)にあひて 古(いに)しへ今を 語りあふとき |
| 16 |
たのしみは 門売(かどう)りありく 魚買ひて 烹(に)る鐺(なべ)の香(か)を 鼻(はな)に嗅(か)ぐ時 |
| 17 |
たのしみは まれに魚烹(に)て 児(こ)等(ら)皆が うましうましと いひて食(く)ふ時 |
| 18 |
たのしみは そぞろ読みゆく 書(ふみ)の中(うち)に 我とひとしき 人をみし時 |
| 19 |
たのしみは 雪ふるよさり 酒の糟(かす) あぶりて食(く)ひて 火(ひ)にあたる時 |
| 20 |
たのしみは 書(ふみ)よみ倦(う)める をりしもあれ 声(こゑ)知る人の 門(かど)たたく時 |
| 21 |
たのしみは 世に解(と)きがたく する書(ふみ)の 心(こころ)をひとり さとり得(え)し時 |
| 22 |
たのしみは 銭(ぜに)なくなりて わびをるに 人の来たりて 銭くれし時 |
| 23 |
たのしみは 炭(すみ)さしすてて おきし火の 紅(あか)くなりきて 湯の煮(に)ゆる時 |
| 24 |
たのしみは 心(こころ)をおかぬ 友(とも)どちと 笑ひかたりて 腹(はら)をよるとき |
| 25 |
たのしみは 昼(ひる)寝(ね)せしまに 庭(には)ぬらし ふりたる雨を さめてしる時 |
| 26 |
たのしみは 昼寝目(め)ざむる 枕(まくら)べに ことことと湯の 煮(に)えてある時 |
| 27 |
たのしみは 湯(ゆ)わかしわかし 埋(うづ)み火(び)を 中(うち)にさし置きて 人とかたる時 |
| 28 |
たのしみは とぼしきままに 人集(あつ)め酒飲め物を 食(く)へといふ時 |
| 29 |
たのしみは 客人(まれびと(まらうど))えたる 折(をり)しもあれ 瓢(ひさご)に酒の
ありあへる時 |
| 30 |
たのしみは 家内(やうち(やぬち))五人(いつたり) 五(いつ)たりが 風だにひかで
ありあへる時 |
| 31 |
たのしみは 機(はた)おりたてて 新しき ころもを縫(ぬ)ひて 妻(め)が着する時 |
| 32 |
たのしみは 三人(みたり)の児ども すくすくと 大きくなれる 姿(すがた)みる時 |
| 33 |
たのしみは 人も訪(と)ひこず 事(こと)もなく 心をいれて 書(ふみ)を見る時 |
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たのしみは 明日(あす)物(もの)くると いふ占(うら)を 咲(さ)くともし火の 花にみる時 |
| 35 |
たのしみは たのむをよびて 門(かど)あけて 物もて来(き)つる 使(つか)ひえし時 |
| 36 |
たのしみは 木(こ(き))の芽(め)瀹(に)やして 大きなる 饅頭(まんぢゅう)を一つ
ほほばりしとき |
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たのしみは つねに好める 焼豆腐(やきどうふ) うまく烹(に)たてて 食(く)はせけるとき |
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たのしみは 小豆(あづき)の飯(いひ)の 冷(ひ)えたるを 茶(ちゃ)漬(づ)けてふ物に
なしてくふ時 |
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たのしみは いやなる人の 来(き)たりしが 長くもをらで かへりけるとき |
| 40 |
たのしみは 田(た)づらに行きし わらは等(ら)が 耒(すき)鍬(くは)とりて 帰りくる時 |
| 41 |
たのしみは 衾(ふすま)かづきて 物(もの)がたり いひをるうちに 寝(ね)入(い)りたるとき |
| 42 |
たのしみは わらは墨(すみ)する かたはらに 筆の運(はこ)びを 思ひをる時 |
| 43 |
たのしみは 好(よ)き筆をえて 先(ま)づ水に ひたしねぶりて 試(こころ)みるとき |
| 44 |
たのしみは 庭(には)にうゑたる 春秋(はるあき)の 花のさかりに あへる時(とき)時(どき) |
| 45 |
たのしみは ほしかりし物 銭(ぜに)ぶくろ うちかたぶけて かひえたるとき |
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たのしみは 神の御(み)国(くに)の 民(たみ)として 神の教(をし)へを ふかくおもふとき |
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たのしみは 戎夷(えみし)よろこぶ 世の中に 皇国(みくに)忘れぬ 人を見るとき |
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たのしみは 鈴屋(すずのや)大人(うし)の 後(のち)に生まれ その御(み)諭(さと)しを
うくる思ふ時 |
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たのしみは 数(かず)ある書(ふみ)を 辛(から)くして うつし竟(を)へつつ とぢて見るとき |
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たのしみは 野(の)寺(でら)山里(やまざと) 日をくらし やどれといはれ やどりけるとき |
| 51 |
たのしみは 野(の)山(やま)のさとに 人遇(あ)ひて 我(われ)を見しりて あるじするとき |
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たのしみは ふと見てほしく おもふ物 辛(から)くはかりて 手(て)にいれしとき |